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側弯症手術の長期予後

今日は18歳までに特発性側弯症のために手術を行ったお子さんの長期的な手術の成績に関しての報告です。
側弯症の手術の際には、多くのが場合に脊椎を長い範囲固定することが基本でありますので、このようなことを行って、将来どのよう問題が出るのかは、非常に大切な治療のポイントだと思います。
これまでにも、初期の側弯症治療の際に用いられていた、Harrington Rod等の長期的な成績は報告されていて、多くの場合、このRodの特性上、脊椎が側面からみた場合に生理的な弯曲を失ってしまう(前面から見たときの弯曲:側弯を上下gに引っ張って治すのと引き換えに)ため、隣接する固定部位の障害のための手術や、まっすぐになってしまったことによると思われる姿勢の問題に起因する腰痛や能力低下のための手術が必要になる場合が多いということは分かっていました。しかし、その後道具と方法は進化して、(詳しくは私のサイト:側弯症とたたかおうをご覧ください https://sites.google.com/site/gawawanzhengtotatakaou/)、側面から見て背骨の生理的な弯曲を治しながら、側ワンも治すことができるようになりました。さて、それでは長期成績はどうかというところです。
これは私の所属していたNYのHospital for Special SurgeryというところのDr. Greenによって本年発表された論文です。私も在籍時には一緒にデータの解析をした記憶があります。Spineという雑誌に掲載され、
Spine (Phila Pa 1976). 2011 Nov 1;36(23):1948-54.
Long-term magnetic resonance imaging follow-up demonstrates minimal transitional level lumbar disc degeneration after posterior spine fusion for adolescent idiopathic scoliosis.
とうタイトルで、18歳までに特発性側弯症のために手術を行い術後10年以上たった方の腰椎のMRIを撮影して、Harrington Rodで問題となっていた、固定した脊椎に隣接する部分(当然器械的な負荷が最もかかると予測される部分)の椎間板がどのようになっているかということでした。
まず手術後の成績としては、良い成績が長期間維持され、患者さんの満足度も高いということがわかりました。
また、MRIでは隣接する椎間板の変性で問題となった方は1名だけで(20人中)、そのほかの方は目立った椎間板の変性はないということでした。しかし一方で、腰椎の中で最も元来負荷のかかる仙骨と第5腰椎の間の椎間板の変性を認め、また腰痛等のためにたまに鎮痛剤を使う方は3人見られた(15%)ということです。しかしトータルで見るととても良好な結果が10年以上維持されているということです。
この論文で大切なのは昔のHarrington Rodが多くの場合10年以内に隣接椎間や固定した範囲の中に問題をおkしていたのに比較して、最近の方法ではその発生をかなり低く抑えられるということでした。
一方で個人的には10年経過しても患者さんたちはまだ20代ですから、相対的に健康です。50代60代になり、健康な方でも椎間板の変性や腰痛が発生する時期に、現代の固定方法がその発生率や程度にどの程度影響するかを知る必要があるでしょう。
ですが、医学は日進月歩ですから、50年後にはおそらく今の方法とは全く異なった方法で、この病気が治療されていることでしょうから、なかなかむずかしところですね。
これは側ワンの治療に限ったことではないですよね。
たとえば近視の治療に使うコンタクトレンズだって50年間使用した場合に角膜に与える影響は誰にもまだわかっていないですよね。
ですから、医師としては病気の原因を知り、その治療の歴史を知り、現在を知り、未来を予想し、正しいと思える治療を行うのがその務めですね。

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eve

ブログをいつも拝見させていただいてます。
私も手術から早10年以上経ちます。30代ですが出産などしたり側湾の方も少しずつ歳をとって行き、若い頃に言われた腰痛や金属疲労などが頭をよぎります。

早く確立した治療法が出来るといいですね。
by eve (2011-11-30 12:12) 

八木満

eveさん。
コメントありがとうございました。
医学は日進月歩ですから、先に行けばいくほどよい治療になっていくわけですよね。今、昔より良い医療ができるのも、先人たちの知恵や努力と、患者さんたちの協力のおかげだと考えながら、これらの先人に続いて、ただ彼らの貯金を切り崩すだけでなく、後世の医者や患者さんのためになるように、すこしでも医療を、医学を発展させたいと考えています。
by 八木満 (2011-11-30 16:26) 

ヘルゲソン

 初めてこちらのブログをみつけ、脊椎外科医の先生に直接お聞きできるのかしら? と感動して書き込みさせて頂きました。

 私は2年半前に40代後半で固定手術を受けました。 腰椎の角度が51度で必ず進行するとのお話でした。

 術後順調に回復しておりましたが一年近く経ってから 背中の酷い痛みが始まり 現在も身体を起こしている間 脊椎が重く太い針金でギリギリと縛り付けられている痛みで外出もままならない状態です。

 固定手術を受けた後 チタンの棒、ボルトなどの摘出手術は可能なのでしょうか?  やはり大きな危険を伴うのでしょうか?

 執刀医は摘出手術は2年以内に行わないと癒着が進んで危険である、と話しており、しかし摘出手術の経験は無いそうです。

 別の側弯外来で、痛みを3~4年様子を見てそれからでも摘出は出来ると言われたのですが、一般に固定手術の金属摘出手術は行われているのでしょうか?

 もし可能でありましたら是非教えてください。 宜しくお願い致します。
by ヘルゲソン (2011-12-02 17:56) 

八木満

ヘルゲソンさま
抜去は可能です。子どものときに手術をして、隣接椎間の問題が30年後に起きて、固定材料を抜いて新たな手術を行うこともあります、
固定材料が疼痛の原因になっているかどうかが大事なことだろうと思います。
by 八木満 (2011-12-04 07:20) 

ヘルゲソン

お忙しい中 返答コメントありがとうございました。

主治医に痛みを伝えると  「レントゲンでは全く問題ないから、痛い痛いというきみは僕の手術を受ける資格が無かった!」  などと言われ、でも夜は肋骨まで痛くなり体をさすりながら、息をするのも苦しい日もあり、どうしたら良いのか途方に暮れていました。


抜去がいつでも可能だとお聞きして、本当に救われた気がいたしました。
 

確かに別の側弯外来でも 「固定材料を取れば痛みがなくなるとは限らないのですよね・・・」 と言われました。 「一年も経ってからそれほどの痛みが始まるのは私の経験ではほとんど聞いた事がないです。」  とも仰っていました。

抜去が可能だとお聞きしたので、その病院で言われたように 3,4年痛みの様子をみていく覚悟ができました。

本当にありがとうございました。

by ヘルゲソン (2011-12-08 19:27) 

八木満

ヘルゲソンさま

腰や背中の痛みの中にはどんなに調べても原因がわからない種類のものもあるのですよね。すべての病気の治すことができればこんなに良いことはないのですが、残念ながら医者が治せる病気はまだ限られているのです。
化膿していたり、明らかにインプラントが緩んでいたりするのでなければ少し経過をみるのも方法だろうと思います。
疼痛が改善することを願っています。
by 八木満 (2011-12-09 13:43) 

ゆか

はじめまして!
34年前にハリントン手術をした現在47歳の者です。
肩こり、肩甲骨痛、頭痛が10年前位からひどく、気持ちが悪くなる程なんですが、これも手術している為仕方ないと耐えております。

普段忙しさもあり病院とは程遠い生活をしておりますが、10年に一度位経過を診察して頂いた方が良いのか考えています。





by ゆか (2012-07-12 09:33) 

八木満

ゆかさん。
コメント拝見いたしました。背中の痛みは術後にも残存することがありますね。現在ハリントンの方法で問題となっているのは、この術式が脊椎を上下に引っ張る力で治す方法であったため、背中が正面からも側面からも1本の棒のようにまっすぐになってしまうこと、それから、そのために上下の脊椎の負荷がかかり、固定している脊椎としていない脊椎のつなぎ目で問題が出ていることです。これらを確認するためにも、10年に1度くらいは通院なさるとよいかもしれませんね、そしてその時に画像のコピーをもらっておくと、10年後に他の病院に行ったとしても比較することができます。
by 八木満 (2012-07-16 10:02) 

ゆか

八木先生、コメントありがとうございますm(_ _)m

自分の症状が気になって、初めて側弯症という病気を調べ始めた所、八木先生のブログを知りました。
現在も側弯症で苦しんでおられる方がたくさんいる事を知り、世界中の子供達を側弯症から救いたいと強く志し、行動していらっしゃる八木先生にとても感動しました。
どうか頑張ってくださいm(_ _)m

夏休み中に手術した千葉大学病院に診察に行って来ます。

ありがとうございました。
by ゆか (2012-07-17 08:28) 

あるむさむ

手術後に金具が入り、MRIとかとれなくなるんでしょうか?


by あるむさむ (2013-12-27 07:00) 

八木満

あるむさむさま
コメント拝見いたしました。
インプラントを使う側弯症の手術をお受けになるとして、現代では多くのプラントがチタンやその合金ですから、MRIはOKですが、中にはできないものもあります。実際に手術を担当される先生に聞かれるとよいと思いますよ。
by 八木満 (2013-12-27 08:14) 

Hako(2016-11-10)

はじめまして。私は、40代後半で思春期に特発性側弯症と診断されて、18歳まで三か月おきに経過観察していますた。コルセットも二回つくりましたが、寝るときしかつけませんでした。当時は、成長止まれば進行しないとされてたので手術をせずにすんだと安堵してましたが、30代後半くらいよりまた進行をはじめ、逆S字カーブなので目立ちにくいですが、この先を考えると手術をしなくてはとおもいます。何人かの先生にみていただい固定範囲も異なり
 腰椎の固定を2.3までにとどめたいのですが、レントゲンで腰椎の椎間板3、4が少し外にずれてました。その場合は、やはり腰椎4までの固定になってしまうのでしょうか。
by Hako(2016-11-10) (2016-11-10 14:28) 

八木満

Hako様

ご連絡ありがとうございました。ホームページの閉鎖により、お答えすることが難しくなりました。どうぞよろしくお願いいたします。
by 八木満 (2017-03-06 19:55) 

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